2026年 1月 の投稿一覧

『この恋は甘い地獄』 第8話 理性と感情が噛み合わない

会わない時間が、気持ちを整理してくれると思っていた

一度距離を置けば、
自然と落ち着くと思っていました。

会わなければ、
気持ちは少しずつ薄れていくはずだと。

でも実際は、
会わない時間のほうが、
彼の存在ははっきりと浮かび上がってきました。


考えるほど、会いたくなる

何をしていても、思考が戻ってしまう

仕事に集中していても、
テレビを見ていても、
ふとした瞬間に思い出してしまう。

「今、何してるんだろう」
「今日は連絡こないのかな」

考えないようにしているのに、
気づけばまた同じところに戻っている自分。

時間が、感情を育ててしまう

考える時間が長くなるほど、
会いたい気持ちも強くなっていきます。

冷静になるための時間のはずなのに、
感情だけが静かに膨らんでいく。

理性と感情が、
少しずつズレ始めているのを感じている。


突然のメッセージが、迷いを壊す

「今から行っていい?」

その日は、
もう今日は何も起きないと思っていました。

家で静かに過ごしていた時、
スマホが震えました。

「今から行っていい?」

短いその一文に、
胸の奥が一気にざわつきました。

もう、家の近くまで来ているという現実

返事を迷っている間に、
続けて届いたメッセージ。

「もう、そっちの近くまで来てる」

考える余裕は、ほとんどありませんでした。
断る理由も、
自分を納得させる言葉も見つからない。


理性より先に、感情が動いてしまう

「少しだけ」という言葉にすがる

少し話すだけ。
顔を見るだけ。

そう言い聞かせながら、
心はもう答えを出していました。

理性はブレーキを踏もうとしているのに、
感情はもうアクセルを踏んでいる。

静かに、後戻りできない場所へ

この時、はっきりとわかっていました。

これは偶然じゃない。
衝動だけでもない。

会わない時間が積み重なって、
どうしようもなくなった結果なんだと。

静かに、
でも確実に、
何かが次の段階へ進み始めていました。


次回予告

次回は、
会ってしまった夜の、その先

抑えていた感情がほどけていく瞬間と、
自分でも予想していなかった心の動きーー

続きはまた次回。

『この恋は甘い地獄』第7話 静かに熱を帯びていくもの

終電がなくなった夜

時計を見たら、
終電の時間はもう過ぎていました。

「間に合わなかったね」
彼がそう言って、
私はただ小さくうなずきました。

慌てるほどでもなく、
ただ事実を確認しただけ。

それなのに、
胸の奥では、
さっきまでとは違う鼓動が続いていました。

もう戻れない時間に、
足を踏み入れてしまったような感覚です。


タクシーの中で、ゆっくり現実に戻る

タクシーの後部座席にひとりで座ると、
さっきまでの空気が、少しずつ遠のいていきました。

窓の外に流れる夜の街を眺めながら、
「何をしているんだろう」
そんな言葉が、頭の中をよぎる。

楽しかった。
確かに、心から。

でも同時に、
この気持ちをそのまま受け取っていいのか、
少しだけ迷いもありました。

高揚感と、
ほんのわずかな罪悪感。
その二つが、静かに混ざり合っていました。


眠れない夜と、落ち着かない気持ち

家に帰ってからも、
なかなか眠れませんでした。

布団に入って、
目を閉じて、
それでも頭の中には彼の顔が浮かびます。

特別な言葉を交わしたわけでもないのに、
なぜか心が落ち着かない。

スマホを手に取っては置いて、
また手に取って。

自分でも気づかないうちに、
彼からの連絡を待っていました。


翌朝のメッセージ

朝、目が覚めてスマホを見ると、
彼からメッセージが届いていました。

「昨日はありがとう。ちゃんと帰れた?」

たった一文。

「うん、大丈夫だよ」
そう返しながら、
口元が少し緩んでいるのがわかりました。

あの夜の出来事が、
現実だったと、
改めて実感した瞬間でした。


何もなかった顔で過ごす、いつもの日常

仕事に行き、
いつも通りの一日を過ごしました。

昨日までと同じ私。
同じ時間。
同じ会話。

でも心の奥では、
確実に何かが変わっていました。

彼の名前が浮かぶたびに、
少しだけ息が深くなって、
気持ちが緩む。

それが、
自分でも驚くほど自然だったのです。


切れてしまった糸は、もう戻らない

一線は、もう越えてしまいました。
あの夜、はっきりと。

それなのに、
感情は荒れ狂うこともなく、
静かに、でも確実に熱を帯びていきました。

もう、
同窓会で偶然再会しただけの関係には戻れません。

張り詰めていた糸は、
音もなく切れていて、
気づいたときには、
元の場所には戻れなくなっていました。

この気持ちがどこへ向かうのかは、
まだわかりません。

ただ一つだけ、
はっきりしていることがあります。

もう簡単には、手放せない感情が生まれてしまった。
それだけは、確かでした。


次回予告:第8話

次回は、
「これで終わりにしよう」と思いながら、
なぜか続いてしまうやり取りについて。

理性と感情が、
少しずつ噛み合わなくなっていく日々。
静かに、でも確実に深まっていく関係ーー

続きはまた次回。

『この恋は甘い地獄』第6話 境目が消えたあの夜

一線を越えたのは、計画でも覚悟でもなかった

ふと空いた“ぽっかりとした時間”

その日は、たまたま仕事が早く終わった日でした。
家にまっすぐ帰る気になれなくて、
なんとなくカフェで時間をつぶしていたら、
彼からメッセージが届きました。

──「今どこ?」──

たったそれだけの言葉なのに、
胸の奥が一瞬でざわつくのだから、
この頃にはもう自分でも気づいていたんだと思います。
“会いたいんだな”って。
そして、“会いたいと思っている自分もいる”ことにも。


なんの抵抗もなく「いるよ」と送った

本当は少し悩みました。
でも、悩んだ時間は驚くほど短くて。

気づけば、
「近くにいるよ」
と返していました。

この返事をした瞬間、
もう何かが少し動いてしまった予感がありました。


軽く食事するだけのつもりだった

合流して、いつものように軽く食事をしました。
会話もいつも通り。
冗談を言い合ったり、仕事の愚痴を聞き合ったり。

なのに、
どこかいつもと違う“静かな緊張”みたいなものが
ふたりの間に流れていた気がします。

それでも、
この時点ではまだ何も起きるはずがないと思っていました。
ほんの少し前までは。


別れ際の「このまま帰るの?」

食事を終えて外に出た時、
夜の空気が少し冷たくて、
なんとなく並んで歩きながら駅の方へ向かいました。

駅が見えてきたあたりで、
彼がポツリと、
「このまま帰っちゃうの?」
とつぶやいたのです。

深い意味なんてないように聞こえる言い方なのに、
その一言がまっすぐ胸に入ってきました。

帰るつもりだったのに、
足が勝手に止まってしまいました。


言い訳のような、“大丈夫だよ”

気まずい沈黙が少しあって、
彼が、
「ちょっとだけ話せる場所あるよ、近くに」
と、本当に軽い感じで言ったんです。

その軽さが逆に、
断る理由を全部奪っていきました。

私は、
「大丈夫だよ」
と答えました。

その“大丈夫”の意味を
どこまでわかっていて言ったのか、
自分でもはっきりしません。


小さなホテル街の手前で、ゆっくり歩いた

歩くうちに、街の雰囲気が変わっていくのがわかりました。
明るい通りから、少し静かな路地へ。

その途中に、
ビジネスホテルや小さなホテルが並んでいるエリアがあって。

彼は前を向いたまま何も言わなかったけれど、
歩く速度がわずかにゆっくりになりました。

たぶん私も、同じくらいゆっくりになっていたと思います。

この時点で、
もう決まっていたのかもしれません。


手をつないだのは、向こうからだった

ホテルの前まできた時、
彼がふっと私の手をとりました。

驚くほど自然で、
驚くほど抵抗がありませんでした。

ドキッとしたというより、
“ああ、こうなるんだ”
と、どこかで納得してしまうような、静かな感覚。

そのまま、
彼に導かれるようにして建物の中に入りました。


境目が消えた夜

部屋に入った瞬間、
現実なのに現実味が薄いような、変な感覚になりました。

彼が少し照れて笑った顔を見た時、
胸の奥にあった迷いが、ふっと消えていったのを覚えています。

キスをされた瞬間、
もう引き返すという選択肢はありませんでした。

感情が先なのか、
身体が先なのか、
自分でももう区別がつきません。

ただ、
境目が完全に消えた夜でした。


次回予告:第7話

一線を越えたあと、
張り詰めていた糸が切れてしまったように、
感情が止まらなくなっていった。

冷静になるべきなのに。
それでも抑えられなかった気持ちについて、
次は書いていきます。

続きはまた次回