
「会わない?」の一言が、思っていたより重かった
彼との連絡が日常に溶け込んできた頃、
突然彼からこんなメッセージが届きました。
──「今週、仕事早く終わる日ある?」──
それだけなのに、胸の奥がじわっと熱くなるのを感じました。
“会いたい”と言葉にしていないのに、
その意図がなんとなく伝わってしまう、あの空気。
この頃には、
彼とのメッセージを楽しみにしていたことを
素直に認めざるを得ませんでした。
再会を重ねるたびに、距離が縮まっていく
仕事の帰り、時間を合わせて彼と会いました。
特別な場所でもなく、普通のご飯屋さん。
いつもと変わらないはずの空気なのに、
前よりも向かい合う時間が静かに心に入り込んでくるようでした。
話す内容は相変わらず普通なのに、
なぜか「普通ではない感じ」が漂う瞬間があります。
彼がふと真面目な顔になった時とか、
笑った拍子に視線が合ったまま少し長くなる時とか。
お互い、意識していないふりをしながら、
実はどこかで探り合っている感じ。
近づきすぎた瞬間
食事のあと、駅まで一緒に歩きました。
夜風が少し冷たくて、
彼が「寒くない?」と何気なく気遣ってくれた瞬間、
ほんの数秒、心がふわっとほどけるような感覚がありました。
手を繋ぐわけでもない。
何か起きたわけでもない。
でも、一歩でも間違えれば距離が変わってしまう、
そんな空気が確かにありました。
その空気はきっと、
彼も同じように感じたと思います。
駅に着いた瞬間の、あの沈黙
駅の入り口に着いたとき、
彼が少しだけ歩く速度をゆっくりにしたのを感じました。
別れたくないとか、
もっといたいとか、
そんなはっきりした言葉はないけれど、
「このまま別れていいのかな」
そんな迷いがほんの一瞬、ふたりの間に流れたような気がしました。
でも結局、ふたりとも言葉にできませんでした。
ただ、
「今日はありがとう。また話そ」
とだけ交わして、それぞれの方向に歩き出しました。
背中を向けた瞬間、
胸の奥がじんわりして、
自分でもよくわからない気持ちだけが残りました。
一線は越えていない。でも、越えかけている
家に帰る電車の中で、
彼から「今日は楽しかった」とメッセージが届きました。
その短い一文が、妙に胸に残ります。
たぶん、
ふたりとも一線を意識しながら、
まだ踏み込まないように気をつけている。
でもその「まだ」が、
逆にドキドキを大きくしているのかもしれません。
今思えば、
この時がいちばん危ない時期だった気がします。
何も起きていないのに、
心の距離だけが勝手に縮まっていく。
そんな時期です。
次回予告:第6話
次の話では、
“まだ”と“もう”の境目が、ふいに消えてしまった夜について書きます。
お互い、気づかないふりをしてきた距離感。
守っていた一線。
その全部が、ほんの些細なきっかけで揺らいだ瞬間。
気持ちが先だったのか、
身体が先だったのか。
自分でもはっきりわからない夜、、、
続きはまた次回。