
終電がなくなった夜
時計を見たら、
終電の時間はもう過ぎていました。
「間に合わなかったね」
彼がそう言って、
私はただ小さくうなずきました。
慌てるほどでもなく、
ただ事実を確認しただけ。
それなのに、
胸の奥では、
さっきまでとは違う鼓動が続いていました。
もう戻れない時間に、
足を踏み入れてしまったような感覚です。
タクシーの中で、ゆっくり現実に戻る
タクシーの後部座席にひとりで座ると、
さっきまでの空気が、少しずつ遠のいていきました。
窓の外に流れる夜の街を眺めながら、
「何をしているんだろう」
そんな言葉が、頭の中をよぎる。
楽しかった。
確かに、心から。
でも同時に、
この気持ちをそのまま受け取っていいのか、
少しだけ迷いもありました。
高揚感と、
ほんのわずかな罪悪感。
その二つが、静かに混ざり合っていました。
眠れない夜と、落ち着かない気持ち
家に帰ってからも、
なかなか眠れませんでした。
布団に入って、
目を閉じて、
それでも頭の中には彼の顔が浮かびます。
特別な言葉を交わしたわけでもないのに、
なぜか心が落ち着かない。
スマホを手に取っては置いて、
また手に取って。
自分でも気づかないうちに、
彼からの連絡を待っていました。
翌朝のメッセージ
朝、目が覚めてスマホを見ると、
彼からメッセージが届いていました。
「昨日はありがとう。ちゃんと帰れた?」
たった一文。
「うん、大丈夫だよ」
そう返しながら、
口元が少し緩んでいるのがわかりました。
あの夜の出来事が、
現実だったと、
改めて実感した瞬間でした。
何もなかった顔で過ごす、いつもの日常
仕事に行き、
いつも通りの一日を過ごしました。
昨日までと同じ私。
同じ時間。
同じ会話。
でも心の奥では、
確実に何かが変わっていました。
彼の名前が浮かぶたびに、
少しだけ息が深くなって、
気持ちが緩む。
それが、
自分でも驚くほど自然だったのです。
切れてしまった糸は、もう戻らない
一線は、もう越えてしまいました。
あの夜、はっきりと。
それなのに、
感情は荒れ狂うこともなく、
静かに、でも確実に熱を帯びていきました。
もう、
同窓会で偶然再会しただけの関係には戻れません。
張り詰めていた糸は、
音もなく切れていて、
気づいたときには、
元の場所には戻れなくなっていました。
この気持ちがどこへ向かうのかは、
まだわかりません。
ただ一つだけ、
はっきりしていることがあります。
もう簡単には、手放せない感情が生まれてしまった。
それだけは、確かでした。
次回予告:第8話
次回は、
「これで終わりにしよう」と思いながら、
なぜか続いてしまうやり取りについて。
理性と感情が、
少しずつ噛み合わなくなっていく日々。
静かに、でも確実に深まっていく関係ーー
続きはまた次回。