『この恋は甘い地獄』 第2話 同窓会の夜に、静かに始まる揺れ


前回、不倫がどのように始まるのかを書きました。
衝動ではなく、静かに、気づかないうちに心が傾いていく——そんな曖昧な始まり。

その“曖昧さ”は、
実はとても普通の出来事からでした。

地元で行われた同窓会。
懐かしい名前が並ぶグループLINEを見たとき、
あの日の夕焼けや、放課後の廊下の匂いまで思い出したのを覚えています。

ただ、それだけ。
ただの同窓会のはずでした。


懐かしさだけのはずだった再会

会場のホテルのロビーは同級生たちの声で賑やかで、
挨拶を返しながらも、どこか夢の中にいるような気分でした。

ほんの数時間だけ、
大人になった自分と、
高校生の頃の自分が混じり合うような、不思議な感覚。

そのなかで、
ふと視線が合った人がいました。

当時、特別仲が良かったわけでも、
憧れていたわけでもありません。

ただ、話すと安心するような、
少し落ち着いた雰囲気の人。

「久しぶりだね」の一言が、
なぜか胸に柔らかく残りました。

それだけのはずでした。


日常に戻ったはずなのに、消えないざわつき

同窓会の翌朝は、少しだけ頭が重く、
でも心は妙に静かでした。

ふだん通りに家のことをして、
仕事の準備をして、
いつもと変わらない一日が始まるはずでした。

なのに——

前夜の何気ない会話や、
同級生たちの笑顔が
断片的に思い出されてしまう。

特に、あの人の落ち着いた声が
なぜか耳の奥に残って離れない。

恋というほど強いものではなく、
興奮でもなく、
ただ、小さなざわつき。

“あれは何だったんだろう”

そう思いながらも、
深く考えるほどのことではない、と自分に言い聞かせました。

この「自分に言い聞かせる」という行為が、
後から思えば、少し心が揺れていた証拠なのかもしれません。


彼から届いたメッセージ

同窓会から数日後の昼下がり。
仕事の休憩中、スマホを開くと、
彼から短いメッセージが届いていました。

お礼のような
気遣いのような
誰に送ってもおかしくない内容。

でも、なぜか胸の奥がほんの少しだけ温かくなる。

返信しようかどうか迷ったわけではありません。
自然に、手が動きました。

「これくらいなら普通」
「同窓会の延長みたいなもの」

そんな風に軽く考えていたはずなのに、
メッセージを送ったあと、
少しだけ心が落ち着かない自分がいました。

その理由は、まだ見えていませんでした。


始まりはいつも静かで、気づきにくい

この時点ではもちろん、
不倫なんて意識していません。

ただの懐かしさ。
ただの同窓会。
ただの連絡。

どれも、言い訳できる程度の軽さ。

でも、境界線はこうして少しずつ薄くなります。
日常のほころびから、
そっと入り込んでくるように。

“特別じゃないのに、忘れられない”

その感覚こそが、
静かな始まりだったのだと今になって思います。


■次回予告:「連絡が日常に変わるとき」

次回は、
ほんの挨拶だけのやり取りが
なぜか毎日の習慣に変わっていく瞬間について書こうと思います。

・返信が早くなる
・相手の言葉を読み返す
・メッセージが来ないと落ち着かない

そんな、ごく小さな心の揺れ–

続きはまた次回。

コメントを残す

*