『この恋は甘い地獄』最終話 地獄だと知りながら、それでも

何も終わっていない日常

あれから、特別な出来事は何もない。

彼と別れてもいないし、
劇的に関係が変わったわけでもない。

ただ、
私の中だけが少し変わった。

気づいてしまったから。


彼からの通知

画面に表示された名前

夜、スマホが震える。

彼の名前。

一瞬で胸が跳ねる。
体は正直だ。

嬉しい。
やっぱり、嬉しい。

「会いたい」

その短い言葉だけで、
一日分の寂しさが報われた気がする。


でも、前とは違う

前なら、
何も考えずに舞い上がっていた。

奥さんの存在も、
未来のなさも、
自分の矛盾も、

全部、見ないふりができた。

でも今は違う。

私は知っている。

この関係が
誰の一番にもならないことを。


嬉しさと、静かな理解

幸せは本物。でも永遠じゃない

彼と過ごす時間は、
やっぱり温かい。

触れられると安心する。
名前を呼ばれると満たされる。

それは嘘じゃない。

でも同時に、

この時間が
“借り物の幸福”だということも
私は分かっている。


依存を自覚しても、消えない想い

私は彼を愛している。

でもそれだけじゃない。

彼に選ばれている自分を、
必要とされている自分を、
失いたくない。

その構造を、
もう理解してしまった。

理解しても、
気持ちは消えない。

それがいちばん厄介だ。


目を開けたまま、ここにいる

盲目ではなくなった

彼の優しさに酔いきることはない。

奥さんの存在を
なかったことにはしない。

未来を期待して
勝手に傷つくことも減った。

私は、
ちゃんと分かっている。


それでも、まだ

彼からの「会いたい」に
心が動く。

嬉しいと感じる。

この矛盾ごと、
いまの私なんだと思う。

正しくない。
綺麗でもない。

でも、嘘でもない。


選ばないという選択

私はまだ、離れない。

でも、盲目でもいない。

期待しすぎない。
自分を削りすぎない。

少しずつ、
自分の重心を戻しながら。

完全に目覚めたわけじゃない。

でも、もう眠ってもいない。


最後に

地獄だと知りながら、私はまだここにいる。

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