第4話 思ったほど後悔していなかった朝
翌朝、いつも通り目が覚めた。
隣には妻がいて、家の中には生活の音がある。
何も変わらない朝。
本当なら、後悔しているはずだった。
やってしまった
一線を越えた。
言い訳はできない。
家庭がある。
子供もいる。
やってはいけないことをした。
それくらい分かっている。
想像していた罪悪感
もっと苦しくなると思っていた。
自己嫌悪でいっぱいになると思っていた。
家族の顔を見られなくなるかもしれないと思っていた。
でも
思ったほどではなかった。
もちろん罪悪感がゼロじゃない。
そんなことはない。
でも——
それ以上に残っていた感情があった。
幸せだった
楽しかった。
それが一番近い。
一緒にいた時間が、純粋に楽しかった。
思い出してしまう
車を運転していても。
仕事をしていても。
ふとした瞬間に彼女の顔が浮かぶ。
まずい
これはまずいと思った。
身体の関係を持ったことじゃない。
そっちじゃない。
問題は
彼女に会いたいと思っていることだった。
もう一度会いたい。
話したい。
笑っている顔が見たい。
遊びなら簡単だった
もし遊びなら。
その場だけなら。
もっと楽だった。
連絡を減らして。
自然に終わらせればいい。
できなかった
スマホを開く。
彼女からメッセージが来ている。
短い文章。
それを見ただけで少し嬉しくなる。
危険な方向
たぶん。
男が本当にハマるのは身体じゃない。
居心地なんだと思う。
欲しくなる
また会いたい。
次はいつ会えるだろう。
そんなことを考えている。
分かっている
このまま進めば面倒になる。
感情が大きくなる。
傷付くかもしれない。
終わる時は苦しい。
全部分かっている。
それでも
後悔しているかと聞かれたら。
正直、できなかった。
むしろ俺は、
次に会う日を考えている。
そんな自分の方が怖かった。
第2話 また会いたいと思ってしまった
帰り道
カフェを出たあと。
車を走らせながら、ふと時計を見る。
思っていたより長い時間、一緒にいた。
それなのに、不思議なくらい疲れていない。
むしろ少し気分が軽かった。
久しぶりだった
女性と話したからじゃない。
楽しかったからでもない。
もちろん、それもあった。
でも一番大きかったのは——
無理をしなかったことだった。
気を遣わなかった
変によく見せようとしなかった。
面白い話をしようとも思わなかった。
沈黙があっても気まずくない。
話題がなくなっても焦らない。
そんな時間が、久しぶりだった。
家に帰る
家に帰ると、いつも通りだった。
子供たちの声。
妻の「おかえり」。
何も変わらない。
本当に何も変わっていない。
それなのに
気付くと、彼女との会話を思い出している。
あの時の笑い方。
少し首を傾げる癖。
話している時の表情。
どうでもいいようなことばかり。
自分でも意外だった
正直、ここまで残るとは思っていなかった。
会う前は、
一度会って終わるかもしれない。
そんなふうに思っていた。
メッセージ画面
夜。
スマホを開く。
何度か閉じる。
また開く。
迷う
送る理由なんてない。
今日のお礼は言った。
それで十分だ。
大人なんだから。
家庭もある。
変に期待を持たせるのも違う。
それでも
このまま終わるのは、少し嫌だった。
打った言葉
しばらく画面を見つめてから、メッセージを送った。
「今日はありがとうございました」
一度止まる。
それだけで終わろうと思った。
本音
でも、指が動いた。
「また会えたら嬉しいです」
送信ボタンを押した瞬間。
少しだけ後悔した。
大人げない
何をやっているんだろうと思った。
学生じゃあるまいし。
この歳になって。
返信
しばらくして返信が来る。
短い文章だった。
でも、それだけで十分だった。
まだ知らなかった
この時はまだ。
次に会うことを楽しみにしている自分に、気付いていなかった。
ただ。
久しぶりに思った。
また会いたい。
それだけだった。
少なくとも、この時は。