『この恋は甘い地獄』第15話 私は彼の”後回し”になっていく

既読のまま、夜が過ぎていく

その日は、
めずらしく私から会いたいと言った。

送ったメッセージは、
すぐに既読がついた。

でも、返信は来なかった。

一時間。
二時間。

スマホを伏せてみても、
結局また手に取ってしまう。

夜遅くなって届いたのは、
短い一文。

「ごめん、今日は家にいる」

それだけだった。

言い訳を、先に探してしまう

きっと急な用事。
きっと家族の予定。
きっと仕方ない。

彼を責める前に、
私は先に彼をかばう。

その癖が、
もう当たり前になっていた。

彼の生活が、ちゃんと回っている現実

家庭の話題が、自然に出るようになる

彼は悪びれもせず、
普通に家庭の話をする。

「子どもがさ」
「今週、家族で出かけて」

それを聞くたびに、
胸の奥が、少しだけ沈む。

私はその輪の外にいる。
最初から分かっていたはずなのに。

私の時間は、空けておく側

彼の予定が埋まっている間、
私は空けて待つ。

もしかしたら会えるかもしれない。
少しでも時間ができたら呼ばれるかもしれない。

そんな期待を、
自分でも情けないと思いながら
手放せない。


優しさが、時々残酷になる

会えた日は、何事もなかったように甘い

やっと会えた日は、
彼はいつも通り優しい。

「会えてよかった」
「やっぱり落ち着く」

その言葉があるから、
また頑張れてしまう。

でも、その次の約束は曖昧なまま

帰り際、
「また連絡するね」

具体的な日はない。
約束もない。

未来が、
いつもぼんやりしている。

それが今の私の立ち位置なんだと、
はっきり分かってしまった。


私の重さと、彼の余裕

私は、会えない間ずっと考えている

会えない時間、
私は彼のことを考えている。

何をしているのか。
誰と過ごしているのか。

彼はきっと、
私ほどは考えていない。

そう思うと、
胸の奥が冷える。

同じ関係なのに、重さが違う

彼にとって私は
「大切な時間」かもしれない。

でも、
「最優先」ではない。

その違いを、
ついに認めてしまった。


それでも、離れられない理由

優先されないと分かっていても

選ばれない。
最優先じゃない。

それでも、
彼といる時間が好きだった。

あの瞬間だけは、
嘘じゃないと分かっているから。

私は、自分を後回しにしている

本当は、
一番後回しにされているのは
彼じゃない。

自分自身だった。

傷ついているのに、
それを見ないふりをしている。

それでもまだ、
この関係を終わらせる勇気はなかった。


次回予告(第16話)

「理解ある女」を演じるほど、
本音は行き場を失っていく。

強がりと我慢が積み重なったとき、
私は、初めて“感情”をぶつけてしまう。

地獄は、
いよいよ形を持ち始めます。

続きはまた次回。

『この恋は甘い地獄』第14話 気持ちの重さが決定的にズレた日

彼の予定が、最優先になっていく

前は、会う約束をするとき
彼は「空けておくよ」と言ってくれていた。

最近は違う。
「その週はちょっと分からない」
「前日にならないと動けなくて」

それでも私は
「忙しいよね」と笑った。
理解ある女でいようとした。

私は、彼の“隙間”に収まる存在になる

彼の仕事
彼の家庭
彼の都合

すべてが先にあって、
その余白に、私との時間が入る。

それに気づいても
不満を言う資格がないことは分かっている。

選ばれないと知りながら
選ばれたい気持ちだけが、重く残る。

彼は変わっていない、と信じたかった

連絡はくる。
会えば優しい。
抱きしめ方も変わらない。

だから私は
「何も変わっていない」と
自分に言い聞かせる。

でも本当は
変わっていないのは彼で、
変わってしまったのは私だった。

私だけが、深い場所に沈んでいる

会えない時間
私はずっと彼のことを考えている。

彼はきっと
普通の日常を生きている。

同じ関係にいるはずなのに
立っている場所が、もう違う。

「好き」の量は、測れないはずなのに

どちらが好きかなんて
比べるものじゃない。

そう思っていたのに
気づけば私は
彼の言葉や態度で
愛の量を測ろうとしている。

それが、いちばん苦しい。

気持ちの重さが、静かにズレきる

私は
彼の一言で一日が揺れる。

彼は
私がいなくても一日が終わる。

その差に気づいた瞬間
胸の奥が、ひやりと冷えた。

それでも、手放せない

ズレていると分かっている。
このままでは壊れるとも分かっている。

それでも
まだ終わりにできない。

だって
この恋を失ったら
私は何を支えに生きればいいのか
分からなかったから。


次回予告(第15話)

会いたい気持ちを抑えるほど
心は、彼に縛られていく。
「大丈夫なふり」が限界を迎えるとき、
彼の優しさは、残酷になる。

続きはまた次回。

『この恋は甘い地獄』第13話 言えない不安が、態度に滲み出る

気づかないふりをしていた違和感

何気ない一言が、引っかかる

彼とのやり取りは、表面上は何も変わっていませんでした。
連絡も来るし、言葉も優しい。

それなのに、
以前なら気にならなかった一言が、
胸に引っかかるようになっていました。

返事のトーン。
少し遅れた返信。
短くなった文章。

「考えすぎ」
そう言い聞かせても、
心が納得していません。

不安の正体が、わからないまま

理由がはっきりしていれば、
対処のしようもあります。

でも、この不安には
名前がつけられない。

嫌われたわけでもない。
距離を置かれたわけでもない。

ただ、
前と同じなのに、同じじゃない気がする
その曖昧さが、いちばん厄介でした。


聞けないまま、態度が変わっていく

ほんの少し、探るようになる

「忙しい?」
「疲れてる?」

以前より、
そんな言葉が増えていることに、
自分で気づいていました。

確かめたいわけじゃない。
責めたいわけでもない。

ただ、
安心できる材料が欲しいだけ。

でも、それを重ねるほど、
自分が“重くなっている気”がして、
また黙ってしまうのです。

甘えと遠慮が、同時に存在する

会えば、
笑っていたい。
楽しい時間にしたい。

でも、
本当は聞きたいことがある。

その矛盾が、
表情や言葉の端に、
少しずつ滲み出ていました。


期待してしまう自分が、怖い

「次はいつ会える?」が言えない

予定の話になると、
胸が少し緊張します。

自分から言い出して、
もし曖昧に流されたら。

その想像だけで、
一歩踏み出せなくなってしまう。

期待して、
裏切られるのが怖い。

だから、
聞けないまま、待つことを選んでしまうのです。

待つ時間が、心を消耗させる

待っている間、
何度もスマホを見てしまう。

通知が来れば、
一瞬で気持ちが浮き上がり、
来なければ、
静かに沈んでいく。

この上下の波に、
少しずつ疲れている自分がいました。


不安は、関係を壊す前触れ

何も起きていないのに、苦しい

大きな喧嘩もない。
決定的な出来事もない。

それなのに、
心は確実にすり減っていく。

この関係が、
もう“楽しいだけ”ではなくなっている。

その事実を、
認めたくなくて、
目を逸らしていました。

それでも、手放す選択肢はない

不安は増えているのに、
離れたいとは思えない。

むしろ、
失うことのほうが、
ずっと怖い。

その気持ちが、
また次の不安を生み出していく。

私は、
そんな循環の中に
静かに入り込んでいました。


次回予告

次回は、
「気持ちの重さが、少しずつズレていく瞬間」

同じ関係にいるはずなのに、
見ている景色が違い始める。

追う側と、
追われる側。

その差に気づいてしまった時、
この関係は、さらに苦しくなっていきます。

地獄は、
音を立てずに深くなっていきます。

続きはまた次回。

『この恋は甘い地獄』第12話 幸せの裏側に、影が差し始める

楽しかったはずの帰り道

同じ時間を過ごしたのに、少し違う感覚

旅行の帰り道、
並んで歩きながら、私は少しだけ黙っていました。

楽しかった。
確かに幸せだった。

でも、胸の奥に
小さな違和感のようなものが残っていた。

それは不安というほど強いものではなく、
ただ、
現実が戻ってくる音のような感覚でした。

別れ際の空気が、少しだけ変わった

駅で別れる前、
彼はいつも通り優しかったし、
特別そっけないわけでもない。

それでも、
「またね」の言葉が、
どこか軽く聞こえてしまった。

気にしすぎだと、
自分に言い聞かせながらも、
その一瞬が頭から離れませんでした。


日常に戻ると、余白がつらくなる

楽しかった分だけ、反動がくる

家に帰り、
いつもの日常に戻ると、
心が急に静かになります。

洗濯物を回して、
冷蔵庫を開けて、
スマホを置く。

さっきまで隣にいた人が、
もう、ここにはいない。

その落差が、
思っていた以上に大きかったのです。

連絡を待つ時間が、長く感じる

彼からのメッセージは、
ちゃんと来ます。

でも、
少し間が空くだけで、
胸がざわつく。

「忙しいだけ」
「何も変わっていない」

そう思おうとするほど、
自分が不安になっていることを
否定できなくなっていきました。


見えない線引きを、意識し始める

踏み込めない場所がある

彼の生活のすべてを、
私は知りません。

週末のあとの予定。
家に帰ったあとの時間。
誰と、どんな空気で過ごしているのか。

聞かない。
聞けない。

それが暗黙のルールだと、
わかっているからです。

「これ以上」を望んではいけない関係

楽しい時間が増えるほど、
欲が出てしまう。

もっと一緒にいたい。
もっと近くにいたい。

でも、
その先を望んだ瞬間、
この関係は壊れてしまう。

そう思うと、
感情を抑え込むしかありませんでした。


幸せと不安が、同時に存在する

満たされているのに、安心できない

彼と過ごした時間は、
確かに私を満たしていました。

それなのに、
心はどこか落ち着かない。

幸せと同時に、
失う怖さが
はっきりと形を持ち始めていたのです。

もう、軽い気持ちではいられない

最初の頃のように、
「楽しいから」
それだけでは済まなくなっていました。

この関係は、
もう私の感情に深く入り込んでいる。

そう気づいてしまった時、
少しだけ、息が詰まりました。


次回予告

次回は、
「言えない不安が、態度に出始める瞬間」

確かめたい。
でも、聞けない。
期待してしまう自分が、怖い。

幸せの裏側で、
静かに崩れ始めるバランス・・・

続きはまた次回。

『この恋は甘い地獄』第11話 二人だけの世界が現実を曖昧にする

彼も、私との時間を選んでくれる

期待に応えてくれているのか、それとも本心なのか

最近、彼は以前よりもはっきりと
「一緒に過ごす時間」を作ってくれるようになりました。

仕事の合間だけじゃなく、
週末に時間を空けてくれたり、
泊まりがけで出かける予定を立ててくれたり。

それが
期待に応えようとしてくれているのか、
それとも本当に一緒にいたいと思ってくれているのか。

考えても、答えはわからないけど。
少なくとも
選ばれている時間がある
その事実が、私を安心させていました。

予定を共有するだけで、心が浮き立つ

旅行の日程を決めて、
宿を探して、
どこに行くかを話す。

それだけのことなのに、
胸の奥が少し弾む。

まるで、
普通の恋人同士みたいだと感じてしまう自分がいました。


夫婦に見られることが、嬉しい

誰にも気づかれない、でも確かにそこにある幸福

旅先では、
誰も私たちの事情を知りません。

隣を歩けば、
自然に夫婦やカップルだと思われる。

お店で二人分の食事を頼み、
同じ部屋に泊まり、
同じ朝を迎える。

その空間の中では、
私たちは「いけない関係」ではありませんでした。

その視線が、心を満たしてしまう

誰かに
「奥さんですか?」
と聞かれるわけでもない。

でも、
そう見られている気がするだけで、
心が満たされていく。

それを嬉しいと感じてしまう自分を、
止めることができませんでした。


一緒にいる間だけ、世界が完結する

現実を忘れてしまうほどの安心感

彼と一緒にいる時間は、
驚くほど穏やかでした。

疑うことも、
不安になることも、
未来を考えることもない。

ただ、
今この瞬間だけが続けばいい。

そんなふうに思えてしまうほど、
心が静かに満たされていきます。

「幸せだ」と、はっきり思ってしまう

いけないことだと、
ちゃんとわかっています。

正しくない関係だとも、
理解しています。

それでも、
一緒にいる時間と空間は、
私にとって
世界で一番幸せだ
そう思えてしまうのです。


幸せが深いほど、戻れなくなる

この時間が、永遠じゃないことも知っている

週末が終われば、
それぞれの現実に戻る。

そのことも、
もちろんわかっています。

でも、
わかっていることと、
受け入れられることは、別でした。

幸せを知ってしまった代償

こんな時間を知ってしまったら、
もう、
何もなかった頃には戻れない。

幸せが深くなるほど、
失う怖さも増えていく。

それでも私は、
この関係を手放す勇気を
まだ、持てずにいました。


次回予告

次回は、
「幸せの裏で、静かに増えていく不安」

一緒に過ごせば過ごすほど、
見えなくなっていた現実が、
少しずつ顔を出し始めます――

続きはまた次回。

『この恋は甘い地獄』第10話 もう戻れない場所に立っていた

「家庭は壊さない」という言葉に、しがみつく

彼には、奥さんがいる

その事実は、最初から変わっていません。
わかっていて、始めた関係です。

だから、
「家庭を壊すつもりはない」
その言葉を、何度も心の中で繰り返していました。

それは理性というより、
自分を保つための言い訳だったのかもしれません。

奥さんは「女性」じゃないと思いたい

彼が話す奥さんの存在を、
いつの間にか、
**「妻」ではなく「家族」**として受け取るようになっていました。

もう恋愛感情はない。
女としては見ていない。
一緒に暮らしているだけ。

そう思えたほうが、
自分の立場が、少しだけ安全になるからです。


「愛されているのは私」だと思いたくなる

彼の優しさが、判断を鈍らせる

彼の言葉も、触れ方も、目線も、優しい。

その一つ一つが、
「選ばれているのは私だ」
そう思わせるには、十分すぎました。

比べるつもりなんてなかったのに、
いつの間にか、
自分のほうが“女性として愛されている”
そう信じたくなっていました。

奥さんとは、体では繋がっていないと信じたい

会えない夜、
ふと浮かぶ想像を、必死に打ち消します。

奥さんと、どんな距離なのか。
同じベッドで眠っているのか。
触れているのか。

考えたくない。
だから、
「もう、そういう関係じゃないはず」
と、自分に言い聞かせる。

真実かどうかより、
そうであってほしいという願いでした。


バレたら困る。でも、やめられない

現実的な恐怖は、ちゃんとある

軽率なことはできない。
痕跡は残さない。
誰にも気づかれないように。

その意識は、ちゃんとあります。

失うものがあることも、
壊してはいけないものがあることも、
理解しているつもりでした。

それでも、欲望は理性をすり抜ける

でも、
彼からの連絡を待つ時間。
会えない日の長さ。

その一つ一つが、
理性を少しずつ削っていきました。

「ダメだ」と思うほど、
「会いたい」が強くなる。

欲望は、
叫ばない。
暴れない。

ただ静かに、
確実に、
判断力を壊していくのです。


ハマっていると、わかってしまった瞬間

自分でも、止められないと気づく

これは恋なのか、
依存なのか、
それとも、ただの逃げ場なのか。

もう、はっきりとはわかりません。

ただ一つ、
確かなことがあります。

私はもう、
この関係に
深く、ハマってしまっている

地獄だとわかっていて、抜けられない

家庭は壊さない。
バレたら困る。
正しくない。

すべて、わかっています。

それでも、
彼に愛されていると思いたい自分を、
止めることができない。

ここが地獄の入り口だと、
はっきりわかっているのに。

もう、
戻れない場所に立っていました。


次回予告

次回は、
**「幸せが深くなるほど、不安も育っていく」**

一緒に過ごした時間が増えたことで、
見ないふりをしていた現実が、
少しずつ輪郭を持ちはじめます。

満たされているはずなのに、
なぜか安心できない。

この幸福が、
いつまで続くのかを考えてしまうーー

続きはまた次回。

『この恋は甘い地獄』 第9話 甘さが、ゆっくりと毒に変わる

これは恋じゃない、と何度も言い聞かせた

最初は、
自分に言い訳ができていました。

好きになったわけじゃない。
ただ、気持ちが揺れただけ。
たまたま、タイミングが重なっただけ。

そうやって整理しようとすればするほど、
心の中で何かが濁っていくのを感じていました。


日常が、静かに壊れていく

何もない顔で、普通の生活をする

翌日も、
私はいつも通り起きて、
いつも通り仕事に行きました。

誰にも気づかれないように。
何もなかった顔で。

でも、
頭の中だけが追いついていませんでした。

彼の声、
昨夜の空気、
触れた温度。

それが、日常の隙間から何度も顔を出します。

「戻れる場所」は、もうない

一線を越えたことで、
戻れる場所がひとつ減った。

元の関係には戻れない。
でも、先が約束されているわけでもない。

その宙ぶらりんな感覚が、
胸の奥に重く残ります。


連絡を待つ自分が、醜く感じる

既読がつくまで、何度も画面を見る

連絡をしないと決めたはずなのに、
スマホを手放せません。

既読がついたかな。
返信はまだかな。

そんな自分が嫌で、
でも、やめられない。

待っている自分の姿が、
どこかみじめで、
それでも目を逸らせませんでした。

主導権が、少しずつ彼に移っていく

気づけば、
会うタイミングも、
連絡の間隔も、
彼のペースになっていました。

「今日は無理」
その一言に振り回され、
「今なら会える」に全力で応えようとする。

こんなはずじゃなかったのに、
そう思いながらも、
もう抜け出せない場所に立っていました。


不倫は、甘い地獄だと知る

気持ちがあるほど、苦しくなる

嬉しいはずの時間が、
終わった瞬間から苦しさに変わります。

一緒にいた余韻と、
現実に戻る痛み。

その落差が、
回を重ねるごとに大きくなっていきました。

「やめたい」と「離れたくない」が同時にある

やめたほうがいい。
終わらせるべき。

頭では、もう答えが出ているのに、
心だけがついてこない。

この関係は、
自分を幸せにしないとわかっているのに。

それでも、
彼からの連絡ひとつで、
全部どうでもよくなってしまう。


次回予告

次回は、
「不安」と「執着」がはっきり形になる瞬間

愛されているかを確かめたくなる気持ち、
束縛とも言えない小さな嫉妬、
自分でも驚くほどの感情の揺れー

続きはまた次回。

『この恋は甘い地獄』 第8話 理性と感情が噛み合わない

会わない時間が、気持ちを整理してくれると思っていた

一度距離を置けば、
自然と落ち着くと思っていました。

会わなければ、
気持ちは少しずつ薄れていくはずだと。

でも実際は、
会わない時間のほうが、
彼の存在ははっきりと浮かび上がってきました。


考えるほど、会いたくなる

何をしていても、思考が戻ってしまう

仕事に集中していても、
テレビを見ていても、
ふとした瞬間に思い出してしまう。

「今、何してるんだろう」
「今日は連絡こないのかな」

考えないようにしているのに、
気づけばまた同じところに戻っている自分。

時間が、感情を育ててしまう

考える時間が長くなるほど、
会いたい気持ちも強くなっていきます。

冷静になるための時間のはずなのに、
感情だけが静かに膨らんでいく。

理性と感情が、
少しずつズレ始めているのを感じている。


突然のメッセージが、迷いを壊す

「今から行っていい?」

その日は、
もう今日は何も起きないと思っていました。

家で静かに過ごしていた時、
スマホが震えました。

「今から行っていい?」

短いその一文に、
胸の奥が一気にざわつきました。

もう、家の近くまで来ているという現実

返事を迷っている間に、
続けて届いたメッセージ。

「もう、そっちの近くまで来てる」

考える余裕は、ほとんどありませんでした。
断る理由も、
自分を納得させる言葉も見つからない。


理性より先に、感情が動いてしまう

「少しだけ」という言葉にすがる

少し話すだけ。
顔を見るだけ。

そう言い聞かせながら、
心はもう答えを出していました。

理性はブレーキを踏もうとしているのに、
感情はもうアクセルを踏んでいる。

静かに、後戻りできない場所へ

この時、はっきりとわかっていました。

これは偶然じゃない。
衝動だけでもない。

会わない時間が積み重なって、
どうしようもなくなった結果なんだと。

静かに、
でも確実に、
何かが次の段階へ進み始めていました。


次回予告

次回は、
会ってしまった夜の、その先

抑えていた感情がほどけていく瞬間と、
自分でも予想していなかった心の動きーー

続きはまた次回。

『この恋は甘い地獄』第7話 静かに熱を帯びていくもの

終電がなくなった夜

時計を見たら、
終電の時間はもう過ぎていました。

「間に合わなかったね」
彼がそう言って、
私はただ小さくうなずきました。

慌てるほどでもなく、
ただ事実を確認しただけ。

それなのに、
胸の奥では、
さっきまでとは違う鼓動が続いていました。

もう戻れない時間に、
足を踏み入れてしまったような感覚です。


タクシーの中で、ゆっくり現実に戻る

タクシーの後部座席にひとりで座ると、
さっきまでの空気が、少しずつ遠のいていきました。

窓の外に流れる夜の街を眺めながら、
「何をしているんだろう」
そんな言葉が、頭の中をよぎる。

楽しかった。
確かに、心から。

でも同時に、
この気持ちをそのまま受け取っていいのか、
少しだけ迷いもありました。

高揚感と、
ほんのわずかな罪悪感。
その二つが、静かに混ざり合っていました。


眠れない夜と、落ち着かない気持ち

家に帰ってからも、
なかなか眠れませんでした。

布団に入って、
目を閉じて、
それでも頭の中には彼の顔が浮かびます。

特別な言葉を交わしたわけでもないのに、
なぜか心が落ち着かない。

スマホを手に取っては置いて、
また手に取って。

自分でも気づかないうちに、
彼からの連絡を待っていました。


翌朝のメッセージ

朝、目が覚めてスマホを見ると、
彼からメッセージが届いていました。

「昨日はありがとう。ちゃんと帰れた?」

たった一文。

「うん、大丈夫だよ」
そう返しながら、
口元が少し緩んでいるのがわかりました。

あの夜の出来事が、
現実だったと、
改めて実感した瞬間でした。


何もなかった顔で過ごす、いつもの日常

仕事に行き、
いつも通りの一日を過ごしました。

昨日までと同じ私。
同じ時間。
同じ会話。

でも心の奥では、
確実に何かが変わっていました。

彼の名前が浮かぶたびに、
少しだけ息が深くなって、
気持ちが緩む。

それが、
自分でも驚くほど自然だったのです。


切れてしまった糸は、もう戻らない

一線は、もう越えてしまいました。
あの夜、はっきりと。

それなのに、
感情は荒れ狂うこともなく、
静かに、でも確実に熱を帯びていきました。

もう、
同窓会で偶然再会しただけの関係には戻れません。

張り詰めていた糸は、
音もなく切れていて、
気づいたときには、
元の場所には戻れなくなっていました。

この気持ちがどこへ向かうのかは、
まだわかりません。

ただ一つだけ、
はっきりしていることがあります。

もう簡単には、手放せない感情が生まれてしまった。
それだけは、確かでした。


次回予告:第8話

次回は、
「これで終わりにしよう」と思いながら、
なぜか続いてしまうやり取りについて。

理性と感情が、
少しずつ噛み合わなくなっていく日々。
静かに、でも確実に深まっていく関係ーー

続きはまた次回。

『この恋は甘い地獄』第6話 境目が消えたあの夜

一線を越えたのは、計画でも覚悟でもなかった

ふと空いた“ぽっかりとした時間”

その日は、たまたま仕事が早く終わった日でした。
家にまっすぐ帰る気になれなくて、
なんとなくカフェで時間をつぶしていたら、
彼からメッセージが届きました。

──「今どこ?」──

たったそれだけの言葉なのに、
胸の奥が一瞬でざわつくのだから、
この頃にはもう自分でも気づいていたんだと思います。
“会いたいんだな”って。
そして、“会いたいと思っている自分もいる”ことにも。


なんの抵抗もなく「いるよ」と送った

本当は少し悩みました。
でも、悩んだ時間は驚くほど短くて。

気づけば、
「近くにいるよ」
と返していました。

この返事をした瞬間、
もう何かが少し動いてしまった予感がありました。


軽く食事するだけのつもりだった

合流して、いつものように軽く食事をしました。
会話もいつも通り。
冗談を言い合ったり、仕事の愚痴を聞き合ったり。

なのに、
どこかいつもと違う“静かな緊張”みたいなものが
ふたりの間に流れていた気がします。

それでも、
この時点ではまだ何も起きるはずがないと思っていました。
ほんの少し前までは。


別れ際の「このまま帰るの?」

食事を終えて外に出た時、
夜の空気が少し冷たくて、
なんとなく並んで歩きながら駅の方へ向かいました。

駅が見えてきたあたりで、
彼がポツリと、
「このまま帰っちゃうの?」
とつぶやいたのです。

深い意味なんてないように聞こえる言い方なのに、
その一言がまっすぐ胸に入ってきました。

帰るつもりだったのに、
足が勝手に止まってしまいました。


言い訳のような、“大丈夫だよ”

気まずい沈黙が少しあって、
彼が、
「ちょっとだけ話せる場所あるよ、近くに」
と、本当に軽い感じで言ったんです。

その軽さが逆に、
断る理由を全部奪っていきました。

私は、
「大丈夫だよ」
と答えました。

その“大丈夫”の意味を
どこまでわかっていて言ったのか、
自分でもはっきりしません。


小さなホテル街の手前で、ゆっくり歩いた

歩くうちに、街の雰囲気が変わっていくのがわかりました。
明るい通りから、少し静かな路地へ。

その途中に、
ビジネスホテルや小さなホテルが並んでいるエリアがあって。

彼は前を向いたまま何も言わなかったけれど、
歩く速度がわずかにゆっくりになりました。

たぶん私も、同じくらいゆっくりになっていたと思います。

この時点で、
もう決まっていたのかもしれません。


手をつないだのは、向こうからだった

ホテルの前まできた時、
彼がふっと私の手をとりました。

驚くほど自然で、
驚くほど抵抗がありませんでした。

ドキッとしたというより、
“ああ、こうなるんだ”
と、どこかで納得してしまうような、静かな感覚。

そのまま、
彼に導かれるようにして建物の中に入りました。


境目が消えた夜

部屋に入った瞬間、
現実なのに現実味が薄いような、変な感覚になりました。

彼が少し照れて笑った顔を見た時、
胸の奥にあった迷いが、ふっと消えていったのを覚えています。

キスをされた瞬間、
もう引き返すという選択肢はありませんでした。

感情が先なのか、
身体が先なのか、
自分でももう区別がつきません。

ただ、
境目が完全に消えた夜でした。


次回予告:第7話

一線を越えたあと、
張り詰めていた糸が切れてしまったように、
感情が止まらなくなっていった。

冷静になるべきなのに。
それでも抑えられなかった気持ちについて、
次は書いていきます。

続きはまた次回